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2007年 06月 27日
それは、まだ世界というものが半径1kmくらいのたぶん5・6歳ころのことだと思います。近所のアパートに工場に勤めるお姉さんがいて、日曜日になると、そのお姉さんの部屋に行って時間を過ごすのが、とても楽しみだったときがあります。
お姉さんは、大切にしていたポータブルのレコード・プレイヤーにいろんなEPレコードをかけながら、フン♪フン♪フン♪と小鳥のようなかわいらしい声で口ずさみます。いっしょに明星や平凡に付録でついている最新ヒット曲集を開きながら、狭い窓越しのベランダに洗濯物を干しながら、ときには鏡台の前でぱたぱたとパフを顔にはたきながら。そのたびに、お姉さんのリボンに飾られたカールしたポニー・テールの先がリズムに合わせて揺れています。 あまいちょっとむせるような化粧品の匂いが、ぷんと鼻をつきます。 取っ替え、ひっ替えいろんな歌謡曲のレコードが楽しそうにターンテーブルの上に乗っかります。 部屋の壁には、明星や平凡についていた人気スターのポスターが貼られていました。お姉さんのお気に入りは、御三家の舟木一夫と橋幸夫と西郷輝彦、それに三田明。なかでも、お姉さんのいちばんのお気入りは三田明でした。ひときわ大きい三田明のポスターが明るくにっこりと、お姉さんにほほえみかけています。 プルースト流に、すこしかっこよく言えば、それはまるでマドレーヌのような、いまでも眼を細めるように脳裏に思い浮かべてしまう日曜の明るい日差しのなかの黄金の時間なのでした。 それから、しばらくして部屋に行くと、お姉さんは引っ越してもういませんでした。お姉さんは、フン♪フン♪と鼻歌を唄いながらお嫁に行ったのだと今でも思っています。 (写真左のポータブル・プレイヤーと本文章はなんら関係がありませぬ。)
by tsukimoto_natsumi
| 2007-06-27 08:03
| Music
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Comments(4)
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